和歌山県新宮市にある「熊野古道」は世界遺産にも登録され、国内外を問わずスピリチュアルな聖地として人気の観光地です。熊野古道そのものをウォーキングして楽しめるほか、新宮エリアには神社などのパワースポットがひしめいています。また、熊野古道は「新宮」エリアから四方へと広がっており、周囲には熊野三山(くまのさんざん)のひとつ「熊野那智大社」や、飛瀧神社の御神体にもなっている名勝「那智の滝」があります。さらに足を延ばせば、公園の一部が「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界文化遺産に登録されている「𠮷野熊野国立公園」があり、紀伊半島の雄大な自然を楽しめます。
ここでは、そろそろ30歳が見えてきたトラベルライターが、熊野古道を中心に、その歴史的な背景などを紹介しつつ、熊野古道を初心者でも楽しめる散策ルートをご紹介します。
新宮市に着いたら最初に巡ってほしいのが、市内にある世界遺産「熊野速玉大社」「阿須賀神社」「神倉神社」の三社参りです。
今回は、新宮市観光協会登録ガイドの「玉置仁美」さんに同行していただきました。
現地のガイドさんといっしょに巡る三社参りがスタートです!
最初に訪れたのは、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の登録地でもある「熊野速玉大社」です。熊野三山のひとつで、全国に3,000以上ある熊野神社の総本宮のひとつでもあります。 熊野の神様が初めて降臨されたのは、あとで紹介する「神倉神社」がある神倉山です。しかし、祭事にしか山に入れなかったため、普段お参りする場所として新しく宮を建てたのが熊野速玉大社なのです。ここには皇族を始め、たくさんの参拝客が訪れています。
境内の手水舎で手を清めてお社の前に立つと、何だか背筋がシャンとします。それもそのはず、この熊野速玉大社に祀られているのは、熊野速玉大神(くまのはやたまのおおかみ)と熊野夫須美大神(くまのふすみのおおかみ)。つまり、「日本書紀」でいうところの「伊弉諾神(いざなぎのかみ)」と「伊邪那美神(いざなみのかみ)」という、日本で最初の夫婦となった二人を主祭神としているのです。そのため、「縁結び」や「家内安全」に御利益があるんだとか。
参拝していると、神官さんから社についてのおもしろい話をお聞きできました。何でも、社の朱色は中国の仏教文化の影響を受けており、魔除けの意味があるとのこと。また、建物は「権現造(ごんげんづくり)」という様式で、屋根の上に置く木材の「千木(ちぎ)」には「ハートマーク」がついていることを教えてもらいました。「さすが縁結びの神様!」などと思っていたのですが、これは「猪目(いのめ)」と呼ばれる平安時代からある彫刻で、こちらも「魔除け」の意味があるのだそうです。
熊野速玉大社で忘れてはいけないのが「梛(なぎ)の樹」です。樹齢1,000年ともいわれるこの御神木の葉は、風が止み、波が穏やかになる「凪(なぎ)」という言葉にかけて、漁師たちの「海上安全」のお守りとなっていました。昔は「道中の安全祈願」として熊野古道を回る際のお守りとしても用いられていたそうです。
こちらが梛の木。国の天然記念物に指定されているので触ったりしてはいけません。
社務所では梛の葉の形をした「なぎまもり」を買うことができます。梛の葉が切れにくいことから、人やお金と「良い縁」があるようですよ。
話を聞いたからには絶対にお守りはほしいですよね。
熊野速玉大社には熊野速玉大社例大祭「御船祭(みふねまつり)」というお祭りもあります。
※国重要無形民俗文化財
こちらは1,100年ほど続いた神事で、御神体を乗せた朱塗神幸船・諸手船・斎主船が、9隻の早船とともに御船島の周囲を3周します。例年10月16日に行われています。
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・熊野速玉大社
【住所】和歌山県新宮市新宮1番地
熊野速玉大社の参詣が終わったら、「川原家横丁」で一休み。この川原家横丁は、江戸時代から大正時代まで使われた簡易住宅である「川原家」を再現し、門前町の賑わいを味わってもらおうとして作られた観光スポットです。
毎週土日及び祝日には、「熊野新宮参詣曼荼羅図」の「絵解き」も見ることができます。絵解きとは、巨大な一枚絵を使った紙芝居みたいなものと考えていただければいいでしょう。この一枚絵を携えた比丘尼(びくに)は全国を回り、熊野信仰を説いて回ったといいます。ちなみに、「新宮参詣曼荼羅図」と「熊野本宮参詣曼荼羅図」はこれまで存在していませんでしたが、「熊野参詣道(くまのさんけいみち)」が世界遺産に登録されたことをきっかけに、新しく作ったとのことです。
京から来た神武天皇がお参りした際に、八咫烏に導かれて神倉山へ登った話や徐福(じょふく)が渡来した話、「雨月物語」の元になったお話を語っていただきました。
平日に聞きたい場合は、有料の出張サービスを利用することもできるそうです。出張サービスの場合、絵のリクエストを聞いてもらえたり英語で絵解きをしてもらったりもできるようです。
ガイドの玉置さんによる特別絵解き。とても上手で聞き入ってしまいました。
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・川原家横丁
【住所】和歌山県新宮市船町1-2-1
続いて訪れたのは「阿須賀神社」です。シンプルでありながら歴史と威厳を感じる石の鳥居をくぐると、目の前には朱色と白のコントラストが美しい本殿が目に入りました。
旅の道中安全祈願は忘れてはいけません。
この阿須賀神社は、元々は「地(じ)の神様」で、海の高潮などから守ってくれる神様を祀った神社です。日本古来の神と仏教信仰とが一体となった神仏習合(しんぶつしゅうごう)の神社でもあるため、大威徳明王も祀られているとのことです。
本殿に向かって右側には、小さな「徐福の宮」があります。阿須賀神社のご神体が、本殿裏にある「蓬莱山」だからというのが由来だそうです。徐福は、秦の始皇帝の命令で不老長寿の薬を探しに日本に行き着いたといわれています。
阿須賀神社では、西宮司さんによる笛を聞かせていただきました。美しい音色が境内のスピリチュアルなパワーを呼び起こすかのよう。最後に「今日は皆さんに良いことがあるようですよ」とのご神託をいただきました。
西宮司さんの笛の音は、阿須賀神社そのものを体現しているかのようです。
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・阿須賀神社
【住所】和歌山県新宮市阿須賀1-25-25
三社参りの最後は、熊野信仰発祥の地ともいえる神倉神社です。神倉神社は神倉山の頂上にあるため、源頼朝が寄進したと伝えられる石段を登らなければなりません。「普通の階段ではありません」とガイドさんから事前情報を得ていたものの、目に飛び込んできた急勾配の石段を見ると足がすくみそうです。
しかし、頂上には最大のパワースポットともいえる「ゴトビキ岩」があります。ゴトビキ岩は神倉神社の御神体でもあり、触ることでパワーを得られるとか。しかも、「熊野の神様が最初に降り立ったところ」なんですね。これは、何としても登らなければ……!
全部で538段ある石段を一つひとつ踏みしめながら、ガイドさんに神社の祭りである「御燈祭(おとうまつり)」の説明をしてもらいました。御燈祭は毎年2月6日に行われるお祭りです。参加して山に入れるのは男性のみ。ただし、国籍などは問われないとのことです。
当日は、しきたりどおりに「精進潔斎(しょうじんけっさい)」をして身を清め、山に入り、たいまつに火をもらい家路につきます。これは「新年の新しい火をもらいにいく」という意味があり、家に帰ると神棚仏壇などに明かりを灯したあと、そのたいまつの火でご飯を炊きます。女の私は「待ってるだけか~」とちょっとガッカリしたのですが、女性は「ご飯を炊く」のが祭りの役割で、男女平等に役割があることをガイドさんに教えていただきました。
あまりの急勾配なので、安全第一に手を添えつつ登ります。
ガイドさんによると、お祭りの当日は山から下りてくる松明の火が美しく、下りてくる火がピョンピョンと跳ねるさまは、まるで蝶々が飛ぶように見えるそうです。新宮には「山は火の滝下り竜」という言葉があるのですが、暗闇を照らす炎が、男たちの歓声とともに山から流れ出すように下ってくる光景は、その言葉を思い出させるとのこと。ガイドさんの裏情報では、この日の男性はとってもカッコイイらしいですよ!見てみたい!
つらかった石段も徐々に緩やかになり、無事頂上に到着です。ここに祀られているのは高倉下命(たかくらじのみこと)と天照大神(あまてらすおおみかみ)という神様だそうです。
しかし、何よりもインパクトがあるのは、最大のパワースポットともいえるゴトビキ岩です。このゴトビキ岩は、ご神体なのに触れられるというのが癒やしポイント。ほとんどのご神体は触れることができないので、とっても貴重な体験ができます。早速、拝殿で拝み、ゴトビキ岩を持ち上げるようにタッチし、スピリチュアルなパワーを吸収! 石段で疲れきった体でしたが、なんだかとても元気をもらった気がします!
男性のみが参加できる「御燈祭り」の写真を見せていただきました。※国指定無形民俗文化財
まるで持ち上げているかのようなポーズを取るのはお約束!
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・神倉神社
【住所】和歌山県新宮市神倉1-13-8
スピリチュアルなパワーをもらったあとは、熊野古道を散策したいところです。しかし、熊野古道には「中辺路」「小辺路」「大辺路」「紀伊路」など、いくつもルートがあり、入門コースでも日頃運動不足気味の私には体力的な不安が……。
そんな私にガイドさんから「ご自宅から熊野に通じる道はすべてが熊野古道なんです」という、ありがたいご教示がありました。もちろん、世界遺産に登録されるようなルートは、公的な資料に掲載されていることや、現在においてもきちんと道が整備されていることなどが条件としてあります。しかし、心情的には「マイ熊野古道」があってもいいということですね!
そこで、初心者にオススメな「高野坂」から「王子ヶ浜」の絶景ポイントまで、往復1時間程度の体験コースを案内してもらいました。
高野坂登り口まではレンタカーやタクシーなどを利用するのがオススメ。効率良く新宮エリアを楽しむためにも、時間と体力は温存したいところ!
高野坂の登り口に着いたら、トイレなどを済ませて歩き始めましょう。また、水分補給のためにペットボトルや水筒も忘れずに!
今回はこちらの高野坂登り口(広角側)からスタートします。
ガイドさんの楽しいお話を聞きながら熊野古道を歩いていると時間が経つのも忘れてしまいます。
コース自体はそれほど険しいわけではありませんが、注意しながら進みます。
すると、今回のゴール地点である王子ヶ浜を望む絶景ポイントに到着! そこには、澄んだ青空に、エメラルドグリーンの海、陽を浴びて緑に輝く木々が織り成すコントラストが、まさに「絶景」です!こんな絶景+熊野古道体験が1時間程度でできるなんて、とっても幸せなコースでした!
王子ヶ浜の絶景をバックに記念写真。いつでも旅の想い出が蘇ります!
ガイドさんと別れたものの、もっとフォトジェニックな絶景が見たくなったので、レンタカーで少しドライブをして「丸山千枚田」を目指すことにしました。
丸山千枚田は、紀和町丸山地区の斜面にある棚田です。何重にも折り重なった棚田の絶景はすばらしく、日本の棚田百選にも選ばれています。
新宮エリアから車で1時間ほど移動すれば目的地に到着します。目的地周辺は山道が狭いため、うまく譲り合いながら走行してください。展望スポットから丸山千枚田を眺めれば、絶対に「来て良かった!」と思う絶景が眼下に広がります。思わず何枚も写真を撮ってしまいました。
王子ヶ浜が海の絶景なら、千枚田は山の絶景! どちらも甲乙つけられないすばらしさです。
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・丸山千枚田
【住所】三重県熊野市紀和町丸山
今回のコースを回って感じたのは、自分一人で回るよりも「どこに何があってどう楽しめるのか」を熟知しているガイドさんと回ったほうが、確実に楽しめるということ。ガイド料は必要となりますが、満足度は格段に上です!
なお、和歌山県内在住の和歌山地域通訳案内士および、全国通訳案内士の有資格者有志による「和歌山地域通訳案内士会」というガイドグループが結成されており、こちらは英語などの外国語にも対応しています。
今回のガイドナビゲーター
新宮市観光協会登録ガイド 玉置仁美さん
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・新宮市観光協会
【住所】和歌山県新宮市徐福2-1-11 熊野御坊南海バス(株)1階
【TEL】0735-22-2840
【料金】新宮市観光協会登録ガイド:熊野速玉大社:2,000円/阿須賀神社:2,000円/神倉神社(ゴトビキ岩まで):3,000円/高野坂:4,000円/絵解き:2枚まで5,000円、4枚8,000円
※ガイド料は20名まで同一料金(料金は全て日本語での対応)
・和歌山地域通訳案内士会
【TEL】0739-33-7451
※英語対応あり